【北京2020年5月20日PR Newswire】COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の発生以来、中国科学院(CAS)武漢ウイルス研究所(WIV)の研究者たちは最前線で研究を続けており、パンデミックを防止および制御するため幅広いR&D業務に携わっている。にもかかわらず、新型コロナウイルスは合成されたもので、パンデミックは同研究所からの漏出によって起きたとの噂がインターネットで世界中に広がっている。
WIVの研究者によるパンデミックの阻止、制御研究の包括的概要を示し、彼らの最前線での経験を世界に紹介するため、科技日報(Science and Technology Daily)はCAS武漢分院長兼武漢国家生物安全実験室長の袁志明氏と、WIVの関武祥副所長に独占インタビューを行った。
▽2019年12月30日以降はフル稼働
科技日報:WIVがCOVID-19の研究・開発業務を開始したのはいつか?最初に与えられた任務は何か?
関武祥:この件に関するWIVの取り組みは、2019年12月30日に始まった。武漢金銀潭病院から「未知の肺炎」のサンプルを受け取り、病原体の検出と同定を徹夜で行うべく、当分野のトップエキスパートを組織し、判明した結果を直ちに関係当局に報告した。
科技日報:COVID-19の大流行が始まってから、パンデミックの予防と制御に関してWIVはどのようなR&D業務に着手したか?業務の進捗状況は?
関武祥:大流行が始まって以来、WIVは様々なR&D業務を秩序立てて遂行してきた。これには、ウイルスの分離と同定、病原体の検出、抗ウイルス薬やワクチンの開発、回復期の患者の血漿中の中和抗体の力価レベルの評価、動物ベースモデルの確立、および発症機序の研究が含まれる。こうした分野における進捗は、パンデミックの予防と制御の最前線に科学的、技術的支援を提供してきた。
WIVは、ウイルスの分離と識別に関して一連の画期的成果を達成してきた。ウイルスの全ゲノム配列を解析してウイルス株を分離、それを新型コロナウイルスと同定し、標準化ウイルスの凍結保存を完了した。1月11日、国家衛生健康委員会の指定機関の1つとして、WIVは同ウイルスの解析結果を世界保健機関(WHO)に提出した。
COVID-19の検出に関しWIVは、核酸検査と血清学的検出技術を開発するため、速やかにR&D体制を組んだ。WIVとUni-medicaが共同開発したCOVID-19核酸検査キットは現在、国家食品薬品監督管理局(NMPA)から緊急認可を得ている。WIVは、Zhuhai Livzon Diagnostics(珠海麗珠試剤)と協力してCOVID-19血清検査キットも開発。これは3月14日にNMPAの認可を受け、医療用として認定された。武漢市の指定機関として、WIVはCOVID-19病原体の検出作業に参加している。1月26日以来、COVID-19が疑われる症例6500以上の咽頭スワブサンプルがWIVで検査された。
WIVは軍事科学院軍事医学研究院の国家緊急予防・制御医薬品工学研究センターとも協力し、市販薬、臨床薬、医薬品候補の選定、評価に当たってきた。われわれは、リン酸クロロキンとファビピラビルが、細胞レベルで新型コロナウイルスに対してかなり明確な抗ウイルス効果を示すことを発見した。それ以外の薬剤も選定され、現在評価が行われている。一方、WIVは、Sinopharm(中国医薬集団)傘下のCNBG(中国生物技術集団)と協力し、不活化全ウイルスワクチンの研究と開発を行ってきた。このワクチンは、4月12日にNMPAから臨床試験の承認を得た。
さらにWIVとCNBGは、回復期の患者の血漿中の中和抗体の力価レベルも評価した。抗体価は1:640に達した。さらなる評価の後、関係諸機関が関連手順に従い臨床試験を実施した。
動物モデルの確立に関して、WIVはアカゲザルのCOVID-19モデリングを完了した。科学技術省が選んだ専門家によって評価されたこのモデルは成功したと見なされており、COVID-19の発症機序や蔓延の研究に使用可能である。これは、新型コロナウイルスのワクチンと治療薬を評価する重要なプラットフォームとなる。
科技日報:ウイルス研究を専門とする研究所として、これまでのウイルス研究の経験はCOVID-19の大流行との闘いにどう役立っているか?
関武祥:WIVは、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の流行を受け、武漢国家生物安全実験室の建設を開始した。当研究所はウイルス研究、特に高病原性ウイルスに焦点を当てている。われわれは、新たな感染症の大流行に対処する際に基礎となる各種ウイルスの基礎研究と予防・制御技術の開発を行ってきた。
とりわけ、当研究所の研究チームは10年以上にわたってコロナウイルスの研究をしてきた。SARSのようなコロナウイルスの核酸や抗体の検出によく使われるコロナウイルスの一般的な核酸検査技術や、ウイルスの分離および培養方法が備わっている。これらは全て、COVID-19大流行の初期段階で病原体の同定に重要な役割を果たした。
科技日報:コロナウイルス研究に長年携わってきた研究所からみて、新型コロナウイルスの大流行を予測することは可能か?
関武祥:2003年のSARSの大流行以降、中国は感染症監視システムを改善、主要な感染症を研究する特別支援プロジェクトを通じて感染症の予防と制御能力をさらに強化した。既存のシステムは、主に感染症の監視と感染症の早期警告に焦点を当てていた。現在、大流行を能動的に予測することは不可能だ。
ウイルスの大流行とパンデミックの予測は、世界のどこでも困難な課題だ。人類は、自然界に存在する全てのウイルスと、それらの発生、成長、拡散、発症機序のパターンを完全に認識しているわけではない。現在の受動的警告レベルから能動的予測レベルに引き上げるには、研究者のグループがコツコツ基礎研究と技術開発を続けていく必要がある。野生動物で見つかったウイルスの長期的な監視と研究の実施は、発生の可能性のある感染症を監視する上で重要な仕事だ。
▽うまく組織化された研究・開発チーム
科技日報:現在、WIVではいくつのチームがCOVID-19の科学研究を行っているのか?具体的には何をしているのか?
関武祥:感染の拡大と遂行中の業務に従い、当研究所は様々なサブフィールドの120人を超える第一線の研究者で12の科学研究チームを編成した。彼らは主に、病原性検査、ウイルスモニタリング、薬物スクリーニング、その他の作業を担当している。さらに、6つのサポートチームから40人以上が集められ、科学研究活動を支援している。国家ウイルス資源データベースは、COVID-19サンプルの収集と標準化を担当。バイオセーフティーレベル3(BSL-3)実験室とバイオセーフティーレベル4(BSL-4)実験室は主に、実験室の通常の運営と科学研究者の安全の保証を担当している。一方、分析・試験センターと実験動物センターは、それぞれ大型機器による分析・試験、実験動物の安全性対策を担当している。
科技日報:科学研究者の典型的な勤務日の内訳は?
関武祥:COVID-19の大流行が始まって以降、WIVの研究者たちは最前線でこの疫病と闘ってきた。彼らは春節の休暇も自主的に返上し、あらゆる個人的な困難を乗り越え、COVID-19の研究に打ち込んできた。
当研究所の研究者たちは約5-6時間連続のシフト勤務で、その間は食事をしたり、飲んだり、トイレを使用したりすることはできない。準備やデータ処理に費やされる時間を考慮すれば、平均して1日約10-12時間働いている。研究機器を効率的に利用するため、複数のチームが交互に小洪山科技園と鄭店園区にあるBSL-3実験室に入り、研究を行う。作業するサンプルの数が多い病原体検出担当チームは、2つのグループに分かれ、BSL-3とBSL-2実験室で交互に作業している。
COVID-19病原体検出チームには非常に多くのサンプルを検出するのに十分な研究者がいないと聞いた研究所の若手が多数、病原体試験にボランティアで参加してくれた。
▽BSL-4実験室の貢献と成果
科技日報:科学的研究の進展という観点から、BSL-4実験室が成し遂げた飛躍的進歩や前進のポイントを挙げてほしい。
関武祥:BSL-4実験室は、実は武漢国家生物安全実験室の補助機関だ。さらに、2つのBSL-3実験室、WIV付属の多数のBSL-2実験室、いくつかの通常の実験室、および動物実験用の施設と支援機器もある。前述の実験室や機関は、バイオセーフティーを守るためのクラスタープラットフォームを構成している。
武漢国家生物安全実験室は、その時点では未同定の肺炎ウイルスのサンプルを受け取り、新型コロナウイルス病原体の分離に成功した後、COVID-19病原性細胞を培養してげっ歯類や非霊長類動物での感染試験を行えるよう数多くの認証申請書を提出した。さらに、実験室の科学研究倫理監視委員会とその動物実験管理組織が、プロセス全体を管理、観察、確認することで、試験に使われる全ての動物の福祉を保証した上で認可を与えた。
従って、武漢国家生物安全実験室は、COVID-19ウイルスの増殖の精製、回復した患者の血漿の中和抗体価の評価、殺菌剤の効果の評価、非霊長類動物の実験モデルと抗体医薬品の確立の評価、不活化ワクチンの開発、動物保護に関する試験など各分野で全体的に進捗を遂げた。これまでのところ、われわれの成果は、ウイルスの増殖と不活化の標準化技術、新たな殺菌剤の発表、COVID-19不活化の評価、アカゲザルにおける感染のモデリング、抗ウイルス薬候補と不活化ワクチン候補の評価にわたっている。動物モデルの確立は、他の抗ウイルス薬候補やワクチン候補を評価する際の基本的基準を提供することにもなった。
▽ウイルスの漏出回避のための厳しいプロトコル
科技日報:バイオセーフティー管理が最も厳格なBSL-4実験室の入退出時に、職員はどのような予防、防護措置を講じているか?
関武祥:BSL-4実験室で働く全職員は、理論的、実践的な研修を受け、身体的、心理的適性評価にパスしなければならない。これらの認定試験にパスしても、上司の許可がなければアクセスできない。
実験室の入り口に到着した研究者は、血圧や体温など基本的な体調のチェックを受け、実験室内での作業に適した範囲内にあることが確認される。プロセス全体を通して、必要な資格認定と適性認定を受けた研究者だけが、実験室の回廊に通じるドアを解錠できる。そこで彼らは、実験室の業務をチェックし、入退室フォームに記入し、監視センターに連絡する。
最初のアクセスに続き、研究者は2番目のドアのラッチを解除した後、最初のフィッティング室に入る。ここで使い捨ての防護服に着替え、呼吸供給ホースをつなぐ前に陽圧防護服をチェックしてから着用する。これらの手順が完了すると、メインの実験室に到着する前に除染シャワー室を通過する。バイオセーフティーを保証するため、実験室には同時に勤務している試験要員が2人以上いなければならない。1人で実験室に入ろうとしても、アクセスを拒否される。
研究者は通常、入室時と同じ経路で実験室を出る。研究者は退室前に、除染シャワー室で化学消毒と水洗を行い、陽圧防護服を完全に消毒しなければならない。職員は全員、内側の防護服を脱ぎシャワーを浴びてから自分の服を着て、実験室を出た後、実験室職員入退室登録フォームに記入しなければならない。この時点で、実験室のシフト勤務が終わる。
実験室内では、研究者と外界とのやり取りは全て、監視センターを通じて行われる。異常事態発生の場合、研究者はまず、できるだけ速やかに同センターに連絡する。実験が行われている時には、いかなる緊急事態にも適切に対応できるよう、監視センターにもバイオセーフティー、バイオセキュリティー、機器サポート要員が配置される。
科技日報:実験室からのウイルス漏出防止に関して、BSL-4実験室はどのような特別防護技術や対策を活用しているのか?
関武祥:武漢BSL-4実験室の中心部はステンレス鋼の壁に囲まれ、「ボックス内ボックス」構造になっている。コア実験室の筐体は、固定密封するのに十分な構造強度と気密性を確保できる。実験室の動態密封は、陰圧技術を使い機能領域間の厳密かつ整然とした圧力勾配を確保、感染性病原微生物に汚染された空気が汚染確率の低い領域や外部環境に広がるのを効果的に防ぐ。
実験室から排出される空気は、2段式の高効率フィルターでろ過してから排出され、排出物の安全性を確保している。排水は、下水処理システムで高温処理後に排出されている。実験室で汚染された廃棄物は、両開きの加圧滅菌器で高温高圧処理された後、安全に取り出され、対応する処理資格のある医療廃棄物集中処理ユニットに運ばれる。職員が入口と出口の通路を通る時はいつでも、通路の安全を確保するため、化学シャワーを使って陽圧防護服が化学的に消毒される。上記の技術的防護措置により、実験室内のウイルスの漏出防止に万全を期している。
実験室には、高規格バイオセーフティー設備だけでなく、一連の手順書や科学研究プログラム、職員、実験動物、廃棄物処理、感染性物質管理に関する標準業務マニュアルなど、厳格なバイオセーフティー管理システムがある。これが、実験室の安全かつ効率的な運営を保証している。実験室の物理的施設は毎年、第三者機関の検査を受けており、その運用は、中国合格評定国家認可委員会の適合性評価と関係国家当局の年次検査の監督、評価の対象となっている。
科技日報:COVID-19ウイルスの研究には長い時間がかかるだろう。今後どのようなフォローアップ作業が行われるのか?
関武祥:WIVは今後も、迅速な対処と緊急対応のための急を要する科学・技術的ニーズに対応していく。また、科学的研究を実施し、病原体の試験、抗ウイルス薬やワクチンの開発、回復期の患者の血漿の中和抗体価の評価、動物モデルと発症機序の研究に突破口を開いていく。
感染症の予防と制御に向けた長期的要請に対応するため、当研究所はバイオセキュリティーと公衆衛生の分野で予防と制御技術の基礎研究と開発を継続していく。また、バイオセキュリティー確保のための、科学的、技術的サポートの提供や意思決定の際の相談にも応じていく。
ソース:Science and Technology Daily