【ロサンゼルス2019年7月17日PR Newswire=共同通信JBN】
*遺伝、汚染によるアルツハイマー病のリスク上昇を相殺する可能性も
*2019年アルツハイマー病協会国際会議より
ロサンゼルスで開催されたAlzheimer's Association International Conference 2019(2019年アルツハイマー病協会国際会議、AAIC)(Alzheimer's Association International Conference )で報告された新たな研究では、健康的な食事、運動、認知刺激などの健康的な生活習慣の選択が、認知低下や認知症のリスクを低下させる可能性があることが示された。研究者らはまた、遺伝や汚染など他の危険因子があっても、生活習慣を変えることでリスクを下げ、組み合わせたときに記憶に最大のメリットをもたらすとの所見を得た。
AAIC 2019で報告された5つの調査研究は、以下のことを示唆している。
Alzheimer's Association(アルツハイマー病協会)の最高科学責任者であるマリア・C・カリーヨ医学博士は「アルツハイマー病に対する効果が証明された治療法はないが、健康的な習慣の組み合わせ(healthy habits )が脳の健康を促進し、認知機能低下リスクを軽減することは、大規模な研究で強く示唆されている。本日、AAICで報告された研究は、われわれが皆、より健康的な生活を送るために役立つ、達成可能で実用的な提案をしてくれた」と語った。
多くの要素から成る生活習慣を変えることで、認知症発症リスクのある人々の記憶および思考スキルを守れるのかどうかを判断するため、Alzheimer's Associationは、リスクを下げる生活習慣介入を通じた脳の健康保護のための米研究(U.S. Study to Protect Brain Health Through Lifestyle Intervention to Reduce Risk、U.S. POINTER)を主導している。U.S. POINTERは、大規模で多様な米国在住者を対象とした、このような併用介入を検証する初の研究である。介入には、身体運動、栄養カウンセリングと変更、認知的・社会的刺激、健康の自己管理の改善が含まれる。この研究は、全米の5カ所で行われており、2023年には初期結果が出る予定。
▽複数の健康的な生活習慣因子の採用が、認知症リスクを下げる可能性
複数の健康的な生活習慣因子の採用が、脳と体の健康に最大のメリットをもたらすことを示唆する研究が増えている。シカゴのラッシュ大学医療センターの助教授であるクロディアン・ダハナ医学博士と同僚は、Chicago Health and Aging Project(CHAP; n=1431)とRush Memory and Aging Project(MAP; n=920)のデータを使用し、健康的な生活習慣がアルツハイマー病のリスクをいかに下げるかを精査した。研究者らは、健康的な食事、少なくとも週に150分の中程度から激しい身体活動、禁煙、軽度から中等度のアルコール摂取、認知刺激活動への参加の5つの低リスク生活習慣因子に焦点を当てた。
CHAPで9年、MAPで6年の平均追跡期間中に、それぞれ293(21%)と229(25%)のアルツハイマー型認知症があった。4つあるいは5つの低リスク生活習慣因子を採用した研究参加者は、低リスク因子の採用がゼロあるいは1つだけの参加者と比べ、アルツハイマー型認知症のリスクが約60%低いことが研究者によって明らかにされた。研究者らは、現在採用している低リスク因子数にかかわらず、低リスク因子をさらに1つ採用すると、アルツハイマー型認知症のリスクがさらに22%減少することも発見した。
ダハナ氏は「この研究で、アルツハイマー型認知症のリスクを下げるには、複数の健康的な生活習慣の実践が重要であることが明確になった。米国では健康的な生活習慣へのこだわりが弱いので、こうした生活習慣因子の宣伝を公衆衛生政策の主要目標にすべきだ」と語った。
▽健康的な生活習慣は、認知症の遺伝的リスクを相殺してくれる可能性
遺伝的因子がアルツハイマー病のリスクを高めることは知られているが、このリスクが健康的な生活習慣によって相殺できるのかどうかは不明だった。エクセター大学医学部の研究フェローであるエルズビエタ・クズマ博士とそのチームは、英バイオバンクの60歳以上の欧州人を祖先に持つ19万6383人の成人のデータを使用し、中央値8年間の追跡調査で1769例の認知症を特定した。研究者らは、参加者を認知症の遺伝的リスクが高い、中程度、低いグループ、さらに食事、身体活動、喫煙、アルコール消費に基づき、好ましい、中程度、好ましくない生活習慣のグループに分けた。
遺伝的リスクを評価するため、研究者らは既に公表されている(previously published )アルツハイマー病関連のあらゆる突然変異を含む、アルツハイマー病ゲノムワイド関連研究統計に基づく、多遺伝子リスクスコア(PRS)を使用した。各遺伝的リスク因子は、アルツハイマー病との関連性の強さに従って加重された。研究者らは生活習慣について、現時点での喫煙なし、定期的な運動、健康的な食事、中等度のアルコール消費を、健康的な行動と見なした。
同研究チームは、遺伝的リスクが高く、生活習慣が好ましくない参加者は、遺伝的リスクが低く、生活習慣が好ましい参加者と比べ、認知症発症の可能性がほぼ3倍高いことを発見した(ハザード比(HR)=2.83、95%、信頼区間(CI)=2.09-3.83、p<0.001)。遺伝的リスクが高い参加者の中では、好ましい生活習慣を続けた場合の原因を問わない認知症のリスクは、好ましくない生活習慣を続けた場合と比べ32%低かった(HR=0.68、95%、CI=0.51-0.90、p=0.008)。遺伝的因子が、健康的な生活習慣と認知症リスクとの関係を有意に変えることは確認されなかった。
クズマ氏は「この研究は、認知症の遺伝的リスクを相殺するために、われわれが実行可能なことがあることを示しているという点で、エキサイティングだ。われわれの研究では、健康的な生活習慣の順守が、遺伝的リスクにかかわらず、認知症リスクの低下と関連していた」と語った。
▽認知予備力が、大気汚染による脳の損傷を防ぐ可能性
これまでの研究で、高レベルの屋外大気汚染 - 特に微粒子物質として知られる空気中の細かい粒子や小滴 - がある場所での生活は、アルツハイマー病やその他の認知症の罹患率の上昇と関連しており、脳の損傷や脳の萎縮を引き起こす可能性があることが示唆されている。研究では、アルツハイマー病が引き起こす脳の損傷が、この疾患と共に生きるすべての人において同程度の認知障害をもたらすわけではないことも示されている。これは、脳損傷の認知への悪影響に対処するための脳の機能である「認知予備力」によって説明できるかもしれない。
AAIC 2019で報告されたこの新しい研究では、南カリフォルニア大学の上級研究員であるダイアナ・ユーナン医学博士と同僚らが、Women's Health Initiative Memory Study(n=6113)に参加した、登録時点で認知症がなかった65-79歳の女性の集団について、認知予備力が、屋外大気汚染への曝露とアルツハイマー病のリスクとの関係に影響を与えるかどうかを調べた。認知機能スコア、教育年数、職業上の地位、身体活動に基づき、認知予備力の低いグループと高いグループに分けられた参加者を14年間追跡し、毎年、認知症試験を実施した。研究者らは、各参加者の自宅の屋外大気汚染レベルを推定するため、数学的モデリングを使用した。
この研究では、大気汚染レベルの高い場所に住むとアルツハイマー病やその他の認知症のリスクが高まることが確認された。重要なのは、認知予備力がより高い高齢女性が、汚染された場所に住んでいることで増加したリスクは21%にすぎなかったのに対し、認知予備力がより低い女性は、環境リスクが113%増加したことだ。
ユーナン氏は「われわれの研究は、肉体的および精神的に刺激的な活動に取り組むことは認知予備力の重要な要素であり、晩年の屋外大気汚染曝露による脳損傷に対する保護を提供してくれる可能性というメリットがあることを示している」と語った。
▽喫煙は、早ければ中年期に認知機能を低下させる可能性
喫煙は認知的加齢の危険因子かもしれないが、生涯にわたる喫煙履歴が後の認知機能とどのように関連しているかについて調べた研究はほとんどない。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の博士課程修了研究者であるアンバー・バホーリック博士と、研究責任者であるクリスティン・ヤッフェ医学博士率いるチームの新たな研究では、若年成人における冠動脈リスク発生研究(n=3364、平均年齢50.1±3.6)から成人の喫煙履歴を25年にわたって精査、認知機能との関連を調べた。
研究者らは、非喫煙者と比べ、「ヘビーで安定した」喫煙者は認知障害を起こす可能性が1.5-2.2倍高いが、「禁煙者」と「最低限で安定した」喫煙者のリスクは高くならなかったことを発見した。彼らは、10年以上にわたり1日1箱吸った人の累積喫煙曝露が、認知機能低下と関連があることも突き止めた。認知障害は、早い場合は40代の喫煙者の間で見られた。
バホーリック氏は「われわれの研究結果は、若年成人から中年までの喫煙は、われわれの予想よりはるかに早期の認知機能障害と関連している可能性があることを示している。これは、継続的な喫煙がいくつかの健康機能に悪影響を及ぼすことを示すエビデンスの蓄積を補強し、禁煙のメリットを強調するものだ」と述べた。
▽女性の退役軍人のアルコール使用障害は認知症リスクを高める
アルコール使用障害(AUD)は軍人の間で最も一般的な物質使用障害であり、米軍の物質使用障害防止・診断・治療・管理委員会によると、女性の間にまん延している。国立衛生研究所(NIH)によって、衝動的なアルコールの使用、アルコール摂取の抑制喪失、不使用時の引きこもりが特徴とされるAUDは、推計1600万人の米国人が経験している。カリフォルニア大学サンフランシスコ校のバホーリック、ヤッフェ両博士のチームはここでも、AUDが女性の退役軍人の認知症リスクをどのように高める可能性があるかを研究した。
研究者らは、退役軍人保健局の医療センターで2004年10月から2015年9月まで、55歳以上のAUDのある2207人の女性退役軍人とAUDのない2207人の女性退役軍人を調べた。調査開始時には全ての女性に認知症はなかった。平均3.6年の追跡調査期間中、AUDのある女性退役軍人の4%が認知症を発症、AUDのない方の発症率は1%だった。人口統計、精神状態、併存疾患の調整後、AUDのある女性はAUDのない女性と比較して、認知症の発症リスクが3倍以上高いことが分かった。
バホーリック氏は「この研究は、認知症リスクプロファイルを評価する際、アルコール使用、特にアルコール使用障害を考慮する必要があることを強調している。それはまた、高齢女性におけるAUDと認知症両方の問題の拡大に対処するためのプログラムとサービスの必要性も強調している」と語った。
▽AAICについて
Alzheimer's Association International Conference(アルツハイマー病協会国際会議、AAIC)は、アルツハイマー病および他の認知症に焦点を当てた世界中の研究者の世界最大の会合である。アルツハイマー病協会の研究プログラムの一環として、AAICは認知症に関する新しい知識を生み出し、重要な共同研究コミュニティーを育成するための触媒として役立っている。
AAIC 2019ホームページ:www.alz.org/aaic/
AAIC 2019ニュースルーム:www.alz.org/aaic/pressroom.asp
▽Alzheimer's Association(R)について
Alzheimer's Association(R)(アルツハイマー病協会(R))は、アルツハイマー病のケア、サポート、研究における有力な任意の保健組織である。われわれの使命は、研究の進歩を通じたアルツハイマー病の根絶、すべての患者に対するケアとサポートの提供と増進、脳の健康の促進による認知症リスクの低減である。われわれが展望しているのは、アルツハイマー病のない世界である。alz.org にアクセスするか、800.272.3900に電話を。
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