2019年、フランスにおける美術品オークションの総売上高は前年比18%増となり、過去最高の8億3千万ドルに達しました。これにより、フランスは国別の主要市場世界ランキングで4位につけています。それでも、美術品オークション部門の売上高が2.5倍になったイギリスとは、まだ雲泥の差があります。
From left to right: Cimabue, Le Christ moqué – Le Maître de Vyssi Brod, La Vierge et l'Enfant en trône - Artemisia Gentileschi, Lucrèce. Three major Old Master paintings sold at auction in France in 2019, appraised by Cabinet Turquin
Artmarket.comのCEO兼創設者であり、美術品部門の創設者でもあるThierry Ehrmann氏は、「フランスにはいくつかの資産がありますが、特筆すべきは古い名画の知られざる在庫であり、それらの多くは毎年、国内オークション会場に出品されています。しかし、その価値と美術史における正当な地位を守るためには、Old Mastersの専門家だけが持つノウハウの結集が不可欠です。今日では、フランスの美術専門家が行った仕事の質の高さは世界中で認められています。」と語りました。
専門家は、パリのサントアンヌ通り69番地に在住する・・・
Old Master絵画の専門家、Eric Turquin氏は、Master of Vyssi Brodによる
作品だとされる小さな宗教パネルは、2019年に取り扱った中で一番の大型売買であったであろうとコメントしています。この年2019年には、6月にToulouse Caravaggioの売買(最終的には個人的に売却されたのですが)、10月にCimabueの絵画、さらには11月にはArtemisia Gentileschiの作品の売買と、Cabinet Turquinが深く関わったこともあり、大きな賑わいを見せました。
しかし、その小さな作品が14世紀に活動したプラハ出身のゴシック画家、Master of Vyssi Brodとして知られる画家のものであると示されたいうことは、まさにtour de force(偉業)と言えるでしょう。作品の出自を明らかにするという、この物議を醸しかねない調査には大変な忍耐が必要でしたが、最終的には、この小さな絵画の並外れた価値を証明する結果となりました。ディジョンでは、入札者9名がこの作品を求めて競り合い、最終的にニューヨークのメトロポリタン美術館の代理人として680万ドルで作品を購入したBenappi Fine Art Galleryが落札しました。
また、アンリ4世の大臣の一人であるPaul Phélypeaux de Pontchartrainのブロンズ胸像が発見され、大体的な調査が開始されました。オークショナーのGéraldine d'Ouinceが初めてこの作品を見たとき、彼女は「これが17世紀のものなんてありえない・・・本当なら凄すぎる!もうこれ以上のものは出ないに違いない!と叫んだと言われています。」この時代に造られた胸像は一流の美術館にも滅多に収蔵されておらず、市場には全く流通していないのです。しかしながらこの胸像は、パリのサントアンヌ通り69番地、Cabinet Turquinの隣を拠点とするSculpture & Collection鑑定会社のElodie Jeannest氏とAlexandre Lacroix氏の協力を得て、使用されたブロンズの年代が17世紀前半であることが証明されました。
これを受けたGéraldine d'Ouinceは、カタログに記載の落札予想額55万ドル~88万5千ドルを大幅に上回る可能性があることを公開入札前に認識しており、実際にPaul Phélypeauxの胸像は340万ドルに迫る莫大な価格で落札されました。
フランスのモデル
米国ではニッチな市場であり、米国の美術品オークション売上のたった3%を占めるに過ぎません。一方、フランスにおけるOld Masters部門は、美術品オークションの売上高の14%をも占めています。この部門は昨年、フランスを拠点とするコンサルティング会社の優れた手腕の恩恵を受けましたが、オークションハウスが情報に聡く確信を持った買い手の関心を引けるようになるためには、長期に渡る調査が必要となることも珍しくありません。
査定報告書に説得力があり、かつ決定的なものであるならば、もう落札は決定したも同然です。報道機関や美術品市場は、調査が進み、証拠が蓄積されるにつれて、忘れ去られた美術品や製作者が不正確な美術品が、美術史の中で少しづつ正当な地位を回復していくというストーリーが大好きです。最終的には、技術的な分析、レントゲン写真、他の名作との比較などがカタログに提示され、作品の真の出自と来歴が明らかにされます。
2019年のフランスにおける落札価格は、鑑定書が正当に作成されるのであれば、作品の売却はトゥールーズやディジョン、あるいはサンリスのような主要な都市以外の小さな町でも行うことが可能であること、またそれでも世界最大のコレクターや美術館の関心を引くことが可能であることの証明に他なりません。
2019年にフランスでオークションに出品されたOld Masters上位10作品
1. CIMABUE (c. 1240/50-c. 1302) 《Christ Mocked》
2,678万ドル (落札予想価格:440万~660万ドル)
2019年10月27日、Hôtel des Ventes de Senlis
2. Master of Vyssi BROD (act.1350~) 《The Virgin and Child on the Throne》
683万3千ドル (落札予想価格:44万~66万ドル)
2019年11月30日、Cortot & Associés、ディジョン
3. Artemisia GENTILESCHI (1593~c.1654) 《Lucrèce》
525万5千ドル(落札予想価格:66万~88万ドル)
2019年11月13日、Artcurial、パリ
4. Antonio SUSINI (アトリビュート) (1558~1624) - 《Abduction of a Sabine》 (c.1590~1610)
498万5千ドル (落札予想価格: 277万5千ドル~554万5千ドル)
2019年11月12日、パリ、サザビーズ
5. Giambettino CIGNAROLI (作者表明)(1706~1770) 《Portrait of Wolfgang Amadeus Mozart》 [...]
443万5千ドル (落札予想価格:88万~132万ドル)
2019年11月27日、クリスティーズ、パリ
6. Ambrosius I BOSSCHAERT (1573~1621) - 《Cut flowers in a Römer》 [...]
370万9千ドル (落札予想価格:247万~280万ドル)
2019年6月19日、Fraysse 《Binoche & Giquello》、パリ
7. Francesco BORDONI (1580~1654) 《Paul Phélypeaux》 [...]
337万2千ドル (落札予想価格: 550万~88万5千ドル)
2019年11月20日、Baecqueより 《d'Ouince》、パリ
8. Hans DAUHER (c.1485~1538) 《Putti》 (c.1525~1530)
263万ドル (落札予想価格:112万~168万ドル)
2019年5月16日、パリ、サザビーズ
9. Bernardino LUINI (c.1480/85~1532) 253万4千ドル 《Madonna and Child with Saint George》
253万4千ドル (落札予想価格:198万~220万ドル)
2019年11月14日、Aguttes、パリ
10. Antonio SUSINI (アトリビュート)(1558~1624) 《La fortune》 (1580~1600)
201万1千ドル (落札予想価格:111万~222万ドル)
2019年11月12日、パリ、サザビーズ
売却または鑑定:選択してください
報告書の客観性に問題があったり、評判の芳しくない独立系企業による評価の場合は、鑑定はより大きな重みを持つことになります。
初めて作品を見たオークショナーは、その作品が売れるとすでに部分的に確信し、オークショナーの仕事の質は取引の成功によって評価されます。オークションハウスは、売却についての市場調査や財務面に注目しすぎるきらいがあります。Patrick Drahiがサザビーズを買収し、実業家のチャールズ・F・スチュワードをトップに任命したことは、サザビーの戦略と優先事項についての強力なメッセージの発信となりました。Salvator Mundiの場合、クリスティーズが、その芸術性の分析やダ・ヴィンチの作品群における地位を疑問視することよりも、国際的な芸術品発掘ツアーの企画に力を注がなかったのではないかと考える向きもあります。
Eric TurquinとAlexandre Lacroixの両名は当分の間、パリないしは地方において、フランスのオークションハウスとの協業を重要視しているように見えます。このようなオークショナーは、その専門スキル、知識、経験、評判、そして何よりもその独立性から恩恵を受けていることは間違いありません。これにより、利益相反が影響することもある美術品市場からの、ある種の圧力を回避することができます・・・例えそれが、最大の美術館のコレクションであったとしても。
品質保証の誓約
前メトロポリタン美術館館長のThomas Hoving氏は、大規模な美術館のコレクションに贋作が存在していることに、20年以上前にすでに美術界の注目を集めていました。1997年、同氏は著書「False Impression, The Hunt for Big-Times Art Fakes」との序文に、こう書き記しています。「私がメトロポリタン美術館で過ごした10年半の間に、あらゆる分野の作品5万点を検証しなければなりませんでした。全体として、40%が贋作であるか、偽善的に修復されたもの、贋作同様に作者を正確に示していないものでした。それ以降、そのような割合が増えたのは間違いないと思います。[...]
「1970年代から1980年代にかけて美術品が高額商品になるにつれ、贋作が盛んになりました。若い富裕層や億万長者は、投資対象としてだけでなく名声や社会的優位性の証として、芸術を欲しがるようになりました。オリジナルの数が減り、需要に応えられなくなったことで、偽のOld Masters(または完全に修復されたもの)がそのギャップを埋めていたのです。」
同氏は、一部では以下の説明を、少なくとも部分的に支持しています。「あらゆる「贋作ハンター」の中で最も厳格なイタリア人「ピコ」こと、Giuseppe Celliniは、80歳を超えた今でもあらゆる種類の芸術ゴミを暴露しています。同氏は、ほとんどのアメリカの美術館が贋作を黙認していたり、内密にする傾向があるのは、裕福な寄付者や受託者に売却したからであると考えています。おそらくそれは、誇張ではないでしょう。」
このことは、ニューヨークのメトロポリタン美術館が2019年にEric Turquinの独立系企業が鑑定した絵画の主な買い手であったことと、偶然の一致ではないでしょう。フランスの専門知識は、新たな世界の需要に直面しています。
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