omniture

生成AI発の新規分子が第II相試験へ:生成AIを使い発見・設計された線維性疾患に対する初の新規TNIK阻害剤

Insilico Medicine
2024-03-13 08:00 3777

*ネイチャー・バイオテクノロジー誌に掲載された研究で、AIアルゴリズムから第II相臨床試験に至るINS018_055の全過程を初めて紹介

*本研究で言及された13の前臨床実験と3つの臨床試験の生データは、インシリコのデータルームからアクセスできる

*インシリコは、ChatGPT-4 Turboと社内LLMをベースに、論文に関する回答をチャット機能で提供するPaperGPTシステムを開発

【ニューヨーク、香港2024年3月13日PR Newswire=共同通信JBN】世界中には、治療薬や利用可能な治療法がない病気が何千もあります。従来の医薬品発見・開発には何十年もの年月と何十億ドルもの費用がかかり、そうした医薬品の90%以上は臨床試験で脱落しています。人工知能(AI)の出現で、そうしたプロセス全体の効率化と改善が期待できるようになりました。しかし、AI主導の創薬の新時代を切り開くには、前臨床の細胞、組織、動物モデルやヒト臨床試験でのコストと時間のかかる検証が必要です。

このたび、そうした前臨床試験や臨床検証の一部が、新たな研究としてネイチャー・バイオテクノロジー誌に掲載されました。本論文でインシリコ・メディシン(Insilico Medicine)と共同研究者は、AIアルゴリズムから生成された、AIが発見したターゲットと新規分子を用いたリード治療プログラムの第II相臨床試験までの道のりを紹介しています。本論文では、生成AIによって発見・設計されたファースト・イン・クラスの可能性を持つTNIK阻害剤の生の実験データと前臨床・臨床評価が、初めて開示されています。本研究は、創薬に効率とスピードをもたらすAI主導の創薬手法のメリットを強調し、生成AIが業界を変える可能性について期待を表明しています。

インシリコ・メディシン創業者兼最高経営責任者(CEO)のAlex Zhavoronkov博士は「新規分子生成用の生成AIに関する当社初の論文が2016年に発表され、その後多くのフォローアップ論文が発表されましたが、創薬界は非常に懐疑的でした。いくつかの検証実験や、現在では多くのバイオ医薬品企業に利用されている当社のAIソフトウエア・プラットフォームが発表された後ですら、疑問の声が数多くありました。研究データ、特に実臨床プログラムから得られたデータに基づけば、これまでこの分野で他社がこれに近いもの出したのを見たことがありません」「私の見たところ、INS018_055の進展は創薬分野において重要な意味があります。これは、当社のエンドツーエンドのAI主導創薬プラットフォーム「Pharma.AI」の概念実証となるだけでなく、創薬を加速する生成AIの可能性を示す先例となります。今回の掲載論文を参考にすれば、生成AI創薬ツールでいかに初期の創薬活動が効率化できるか推定できます。私たちは、本プラットフォームの適用拡大により、コストや効率性など業界の研究開発が直面する課題に対処し、患者さんに革新的治療法をより速く届けられると期待しています」と語っています。

インシリコは、老化と密接に関連する生物学的プロセスである線維症に焦点を当て、この研究を開始しました。研究グループはまず、インシリコ独自のAIプラットフォームPharma.AIのターゲット同定エンジンPandaOmicsを、組織線維症関連のオミックスデータセットや臨床データセット上で学習させました。次にPandaOmicsは、深層特性合成、因果推論、デノボ・パスウエー再構築を使い、潜在的ターゲットリストを提示しました。その後、PandaOmicsの自然言語処理(NLP)モデルが、特許、出版物、助成金、臨床試験データベースを含む何百万ものテキストファイルを解析し、新規性と疾患関連性をさらに評価しました。最も有望な抗線維症ターゲットとして同定されたのが、TNIKでした。注目すべきなのは、TNIKは以前の研究で間接的に複数の線維化駆動経路への関連が判明していたにも関わらず、特発性肺線維症(IPF)の潜在的ターゲットとして研究対象になっていなかったことです。インシリコの研究者は別の論文で、TNIKが老化の複数の特徴に関与している可能性があることを明らかにしていました。

インシリコの研究者は、TNIKを主要ターゲットに選んだ後、同社の生成化学エンジンChemistry42を活用し、構造ベース創薬(SBDD)ワークフローを使い、望ましい特性を持つ新規分子構造をつくり出しました。Chemistry42は、40以上の生成化学アルゴリズムと500を超える学習済み報酬モデルを組み合わせ、デノボ化合物を生成し、専門家によるフィードバックに基づいて生成とバーチャルスクリーニングの両方を最適化できます。複数回の反復スクリーニング後、有望なヒット候補の1つが50ナノモルの阻害活性値(IC)を示しました。研究グループは、TNIKに対する顕著な親和性を維持しつつ、溶解性を高め、動物での良好な吸収・分布・代謝・排泄(ADME)安全性プロファイルを向上させ、不要な毒性を軽減するべく化合物をさらに最適化し、最終的に80未満の分子を合成、テストしたリード分子INS018_055を生み出しました。

その後の前臨床研究でINS018_055はIPFに対し、体外および体内試験で有意な有効性を示し、複数の細胞株と複数の生物種にわたる薬物動態および安全性試験で有望な結果を示しました。さらにINS018_055は、汎線維化抑制機能を示し、別の2つの動物モデルで皮膚および腎臓の線維化を抑制しました。これらの試験に基づき、INS018_055は、PandaOmicsが2019年にIPFの新規ターゲットとなり得るとしてTNIK提案してから18カ月足らずの2021年2月、前臨床候補(PCC)指名を達成しました。

INS018_055は、これまでの臨床試験で優れた成果を示しています。PCC指名から9カ月後の2021年11月、オーストラリアで行われたINS018_055のファースト・イン・ヒューマン(FIH)微量投与試験において、最初の健常ボランティアへの投与が行われました。この微量投与試験では、予想を上回る良好な薬物動態と安全性プロファイルが得られ、この臨床概念実証は成功裏に終了、臨床試験の次の段階に進むお膳立てが整いました。ニュージーランドと中国で実施された第I相試験で、INS018_055は、単回投与漸増(SAD)試験と反復投与漸増(MAD)試験を集中的に行う78人と48人の2つの健常被験者群で試験されました。国際的な多施設・第I相試験では一貫した結果が得られ、INS018_055の良好な安全性、忍容性、薬物動態(PK)プロファイルが示され、第II相試験の開始が支持されました。

インシリコ・メディシン共同CEO兼最高科学責任者のFeng Ren博士は「私たちは、AIの手法と人の知能を組み合わせて時間とコストを大幅に削減しつつ、INS018_055をファースト・イン・クラスの抗線維化阻害剤となり得る候補とすることに成功しました」「私たちは、良好な前臨床データと入手可能な臨床データに意を強くしており、INS018_055が第II相臨床試験でも良好な成績を収めると期待しています。この臨床試験は、患者さんに革新的な選択肢を提供すると同時に、AI主導創薬業界により確かなエビデンスをもたらすでしょう」と語っています。

今回の発表時点で、IPF治療薬INS018_055の2つの第2a相臨床試験が米国と中国で並行して実施されています。本試験は、リード医薬品の安全性、忍容性、薬物動態を評価するよう設計された、無作為化・二重盲検・プラセボ対照試験です。本試験ではさらに、IPF患者の肺機能に対するINS018_055の予備的有効性も評価します。本医薬品は進歩し続けており、この致命的疾患に苦しむ世界中の約500万の人々に希望がもたらされることになります。

インシリコの創薬の取り組みを牽引しているは、生物学、化学、臨床医学の各分野にまたがって機能し、バイオテクノロジー及び製薬業界に高度な生成AIツールを提供し、社内の研究開発を加速させている、検証済みで商業的に採算の合うAI創薬プラットフォームPharma.AIです。Pharma.AIに支えられているインシリコは、線維症、がん、免疫及び老化関連疾患など、複数の疾患領域で医療にブレークスルーをもたらしています。2021年以降、インシリコは30を超えるアセットから成る包括的ポートフォリオの中から18の前臨床候補を指名し、6つのパイプラインを臨床段階に進めてきました。

業界のコメントと追加情報

インシリコ・メディシン科学諮問委員会(SAB)のCharles Cantor博士は「AIと深層学習の手法が、将来の医薬品開発の方向性を形作る上で重要な役割を果たすだろうとの憶測は数多くありましたが、この論文は、非常に説得力のある概念実証を提示しています」「ターゲットの同定から薬剤候補の選択、第1相試験に至るまで、ほぼ全ての段階でAIに後押しされた新規分子は現在、第2相臨床試験の準備が整っています。このプロセスが一般的だと証明されれば、AIを使わない医薬品開発は考えられなくなるかもしれません」と語っています。

Sinovation Ventures会長で01.AI CEOKai-Fu Lee博士は「医療は、デジタル化という重要な変革期を迎えています」「私は、AIとデータサイエンスの活用が医療分野に革命を起こすと信じています。インシリコ・メディシンのTNIKプログラムはその好例で、化学と生物学の生成AIの下でゼロから医薬品を発見する、画期的パラダイムが示されました。インシリコが達成した、説得力ある実験データに裏打ちされたマイルストーンは、私たちが最先端の情報技術で生命科学を進歩させる正しい道を歩んでいるのだとの自信を、エコシステム全体に与えるでしょう」と語っています。

2013年にノーベル化学賞を受賞したマイケル・レビット(Michael Levitt)博士は「多くの企業が創薬のさまざまな段階を改善するためAIに取り組んでいますが、インシリコは初期の創薬と設計の全段階にAIを適用しようとしており、これは私にとって非常に興味深いことです」「インシリコは、文字通りAからZまでAIです。同社は、新規ターゲットを同定しただけでなく、初期の創薬プロセス全体を加速させ、TNIKプログラムで自社のAI手法の検証に成功しました。創薬は、不確実性の高い、非常に広範なプロジェクトです。AIは、膨大なデータに特定の技術をうまく対処させ、巧みなフィルタリングと組み合わせることで、不確実性から確実性と選択肢を得ることができます」と語っています。

カンザス大学の医化学非常勤教授で、アッヴィ(AbbVie)のグローバル医薬品化学リーダーシップチーム元責任者のStevan Djuric博士は「昨今、AIやML、生成デザインの長所を毎日のように目にするようになりました。誇張され過ぎのような気もします」「しかし、この論文でインシリコ・メディシン・チームは、前述したツールを活用したターゲットの同定と検証、医薬品化学設計、臨床試験コンポーネントを特徴とする独自のプラットフォームのパワーを、説得力をもって実証しました。経験豊富な医薬品化学者にとっての主要課題は化合物の力価向上でなく、むしろ(CLuなどの)PKや安全性(オフターゲット効果)の微調整であることの方が多いのです。インシリコ・エンジンは今回発表した症例で、こうした難問の全要素に特にタイムリーに対処することに成功しました。この薬剤のさらなる進化と、生成AIのパラダイムを使い発見されたさらなる臨床候補化合物に関するニュースを心待ちにしています」と語っています。

トロント大学化学・コンピューターサイエンス教授でAcceleration Consortium部長のAlan Aspuru-Guzik博士は「創薬のためにAIをやっていると言う人は大勢います」「しかし、成果を上げているのはほんの一握りです。インシリコのチームは、標的の同定とそれに続く治療薬の開発の両方を全てAIによって実現してみせました。これは、私の知る限り、第II相臨床試験まで進んだ初のAI生成薬です。学界にとってもインシリコにとっても、まさに画期的な出来事です。ここで得られた教訓をさらに広げれば、発見や開発のプロセスを加速させられます」と語っています。

ドイツ医師会認定薬理学者・毒物学者でインシリコ・メディシン前臨床コンサルタントのKlaus Witte医学博士は「線維症に対するINS018_055の前臨床プロファイリングを開始した時、誰もがそのターゲットであるTNIKを腫瘍適応候補と見ていました」 「当初は私も半信半疑でしたが、私たちが作成した全データが、抗線維化効果を示すというインシリコの予測を明確に裏付けていました。現在入手可能な前臨床と臨床の幅広いデータを見て、INS018_055は肺線維症やその他の線維化症状に対する非常に価値のある治療選択肢になり得ると確信しています。本化合物を現段階まで導くのに貢献できたことを、本当に誇りに思っています」と語っています。

アーヘン工科大学の医師兼科学者のChristoph Kuppe教授は「私は臨床医として、新規かつ効果的な治療法の必要性を肌で感じています。この画期的な研究は、発見から治療までの道のりを加速させ、現在治療の選択肢が限られている疾患に対する戦略を再構築する上で、AIが果たし得る中心的役割を浮き彫りにしています」と指摘しています。

ニューヨーク大学のコンピューターサイエンス教授のBud Mishra博士は「Alex(Zhavoronkov氏)とインシリコがわずか10年で成し遂げた驚くべき進歩に、衝撃を受けました」「この論文は、複数の遺伝子変異が関係する複雑な遺伝疾患、特発性肺線維症に焦点を当てています。彼らはこの複雑な問題を、標的(すなわちTNIK)の選択と、その標的に結合して無効化する低分子の設計による創薬プロセスの誘導という2つの部分に分割しました。前者は、過去に蓄積された科学的経験に基づく発見的手法(対象は新規で、既知の経路との相互作用という点で理解しやすく、過去に創薬や臨床試験を導く際に他の研究者が用いたアプローチに従わなければならない)を用いるため、大規模言語モデル(LLM)を用いたNLPに理想的です。後者は、ディープニューラルネットワーク(DNN)を使って複雑な組み合わせ空間を探索し最適化するためにランダム化された発見的手法を使っており、自然に発生する「難しい問題の簡単な例」に対処できます。推測するに、ムーアの法則によって計算能力は指数関数的に向上し続けるため、前者は時間の経過とともに難しくなり(妄想対真実の新規性)、後者はより単純になるでしょう」と語っています。

参考文献
Ren, F., et al. A small-molecule TNIK inhibitor targets fibrosis in preclinical and clinical models. Nat Biotechnol (2024). https://doi.org/10.1038/s41587-024-02143-0

インシリコ・メディシン(Insilico Medicine)について

生成AIを活用したグローバルな臨床期バイオテクノロジー企業インシリコ・メディシンは、次世代AIシステムを使って生物学、化学、臨床試験分析を結びつけています。同社は、深層生成モデル、強化学習、トランスフォーマー、その他最新の機械学習技術を活用して、新たなターゲットを発見し、望ましい特性を持つ新たな分子構造を生み出すAIプラットフォームを開発してきました。インシリコ・メディシンは、がん、線維症、免疫疾患、中枢神経系疾患、感染症、自己免疫疾患、老化関連疾患用の革新的医薬品を発見、開発するための画期的ソリューションを開発しています。www.insilico.com

ソース: Insilico Medicine